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POWER-Z KM003C風USBテスター ATORCH C13Pをレビューする

似て非なるもの

まったくもって中華通販はおもしろい。お気に入りのUSBテスターKM003Cになんとなく似ている製品があった。AliExpressでは2023年10月23日から5,700円前後で扱われている。KM003Cが1万円前後で売られているのを考えると4割ほど安い。

調達

メーカーは電子負荷抵抗でおなじみのATORCHになる。AliExpressの扱いはATORCH公式ストアのみとなっている。メーカーのホームページではAI女子が製品紹介を行っている。公式では天猫(ティエンマオ)を紹介していて、ここだとUSBケーブルが付いて8,600円で売られている。センサーは安く、400円~1,000円で販売している。アリエクで25個、天猫で100台の販売実績というところを見ると普及にはほど遠い。本家KM003Cとどれだけ違うのか、どれだけ似ているのか比較するためにアリエクで購入してみた。

事前準備

あらかじめ取扱説明書に目を通しておこうと思ったらこのマニュアルに行きついた。ようはマニュアル作ってません、製品内で説明ポップがあるからそれを見よということらしい。

機種 Juwei C13P POWER-Z KM003C
基本
サイズ 35.4×10×35.4mm 35.5×8.6×36.4mm
ディスプレイ IPS高解像度フルカラー IPS高解像度フルカラー
画面サイズ 240×240ドット 240×240ドット
重力センサー
電子水準器  
スーパーキャパシタ(瞬停対応)  
eMarker検出 △フェイク数値
電力系機能
電圧 0~50V 公称値 0~50V
電流 0~6.5A 公称値 0~6A
電力 0~325W 公称値 0~300W
急速充電トリガー QC 2.0,QC 3.0,ClassA/B,AFC,FCP,
SCP,HISCP,VIVO5V4.5A,
VIVO10V2.25A,VIVO11V4A,
MTK PD,PPS
PD 2.0/PD 3.0/PPS/EPR/QC 2.0/
QC  3.0/AFC/FCP/SCP/VFCP/
UFCS/VOOC/Xiaomi

(VOOC/SVOOC)
急速充電自動検出 APPLE,SS2P0,BC1P2,
TYC,QC 2A,QC 3A,
QC 3B,AFC,FCP,SCP,HISCP,
VOOC,SVOOC,VOOC 3.0,
VOOC 4.0,VIVO,VOVO2(Z3 27W),
VOVO3(IQOO 44W),MTK,PPS,
PD3/PD2
PD 2.0/PD 3.0 PPS/
PD 3.1 EPR/QC 2.0/
QC 3.0/QC 3+/QC 4+/
QC 5/AFC/FCP/SCP/
VFCP/UFCS/APPLE 2.4A/
SAMSUNG/Xiaomi/VOOC/
MTK PE/SFCP
ADコンバーター
急速充電プロトコル自動検出
急速充電プロトコルトリガー
PDO検出
Type-C充電検出
プロトコル識別
電圧電流曲線
D±,CC1/CC2論理曲線
高速電圧リップル
バッテリー容量検出
バッテリー容量計算
その他
ケーブル抵抗検出 開発中
データストレージ 10本 4MB
Lightning MFi情報表示   開発中
ケーブルシミュレーション  
Apple Charger情報表示  
拡張アクセサリー
PWM信号発生  
Bluetooth接続  
Wi-Fi接続  
パルスオキシメーター 開発中  
脈拍心拍数  
温湿度  
オシロスコープ  
気圧高度  
空気品質  
ホルムアルデヒド濃度  
外付けバッテリー 開発中  
PCソフト
Mac OS   開発中
FWアップデート
システム設定
充電検知
プロトコルトリガー 開発中
急速充電プロトコル自動検出 開発中
バッテリー計算 開発中
PD/UFCSプロトコル解析  
SOP/SOP'/SOP"通信  

公開されているデータで2機種を比較してみた。本来のUSBテスターとしての機能はほぼ互角。KM003Cで未対応のケーブル抵抗測定メニューが組み込まれているのはよい。水準器は最近はスマホでも使えるが、USBテスターになぜ必要なのだろうという疑問はある。

そして豊富なセンサー類を含めたオプションがすごい。これは本当にUSBテスターでやらなければならないのだろうか。オシロスコープは持っていないので使えるものなら興味はある。

PCソフトはほとんど未完成である。これはKM003Cの完成度と比べようがない。

実物確認

クリスマスイブに購入して6日で到着した。年末であるにも関わらず最近のアリエク配送は早い。見た感じ、画面や操作のUIはそっくりである。KM003Cのケースはしっかりとしたハウジングなのに対して、いかにも分解してくれと言わんばかりの構造だ。USBテスターにはこのタイプが多い。液晶部にボタン説明を入れているのはよい。

Type-A→Type-Cケーブルが同梱しているのはHIDインターフェイスのCレセプタクルCC1/CC2が5.1kΩプルダウンされておらず、C-Cケーブルを使うとコールドソケットのまま通電されないためだ。なぜこのような基本的な設計ができていないのだろうか。

そして缶ケース表面に貼られているユーザマニュアルのQRコードリンク先にはC13Pのマニュアルなどアップされていない(2023.12.31現在)。

せっかくなので分解して中を見てみることにする。光沢のある裏面を取り外すと光沢のない板がサンドされていた。この光沢のない板の裏側も同様のプリントがされている。なんのためだろうか。

メインのチップは見られたくないのかマスクされている。32MHzのクオーツが使われている。上に見えるType-Cレセプタクルになぜ5.1kΩを入れなかったのか。

液晶側は部品が実装されていない。

基本的なレイアウトはKM003Cと同じにしてある。ボタンのレイアウトも一見同じだが、実際のオペレーションはまったく違った。

基本操作

取説なしでも使えるんだ!という開発者の思いを尊重して、そのまま使い始めてみよう。

アップデート

FW1.1.1で到着したのでまずは最新のFW1.1.2にアップデートした。PCにつないで初めて機器のシリアルが073263であることを知った。一体何番からの通しなんだろう。

アップデータはあらかじめサイトからダウンロードしておいて読ませる方式である。KM003CはPCソフト内で最新更新情報が見れて指定をすれば勝手にダウンロードしてきてアップデートが終わるのに比べるとずいぶん原始的だ。

今のところ唯一使える機能はこのグラフ表示だけ。X軸は現時刻になっている。プロットのタイミングを変更することはできないし、今後発展の可能性もなさそうな作りである。

設定メニューはほぼ中国語で意味不明、機器には英語版FWが入っているので英語でしか表示できない。

ひょっとしてと思い、KM003Cアプリを立ち上げると認識はするものの接続はできなかった。残念である。

起動直後

HIDポートに電源をつなぐと、ATORCHのブート画面が出たあとにこの状態で起動する。USBテスターなのでこの挙動はまだ許容できる。この画面は機器回転による自動ローテーションをサポートしている。

ここからメインメニューに戻る方法は[M(enu)/OK]ではなく、↶ボタンである。◀▶を押すと5秒でスクリーンオフになる。

メインメニュー

↶でメインメニューに戻ってもすぐに操作しないと3秒カウントダウンが始まり、元の起動画面に戻されてしまう。

全部で3画面あり、キャプションが小さいので老眼にはつらい。アイコンである程度識別できるぐらいにしておかないといけない。1画面目は電気系統、2画面目は拡張アクセサリー、3画面目はその他である。

設定も3画面ある。英語なので読めばわかるだろう。この画面は回転しない。本機はほとんどの画面で回転をサポートしていない。回転は起動直後のダッシュボードとメインメニューぐらいだろう。ひとつひとつの作りが雑なのである。

ダッシュボード

KM003Cと酷似した画面だが、それぞれの数値の大小がKM003Cは背景色濃淡で表すのに対して、こちらは右側のバーで表現している。

充電時に検出したプロトコルを表示するが、まず正しく出ない。まったく使い物にならない。

数珠つなぎにするとよくわかる。プロトコルを読めてないし、電力の向きは正しい方向を指していない。数値はどちらも問題なさげだ。

充電プロトコル検出

USBテスターとして必須だろう。警告文は細かすぎて読めない。検出はできているが、KM003Cのように検出結果にカーソルを移動させて詳細を見る機能はない。PDの中身も見れない。

PD 3.1 EPR対応としているが、EPRのeMarker入りケーブルを用意しても読めなかった。これは致命的な問題なので早急にFWで対策して欲しい。KM003Cのようにケーブル偽証はできないので、レセプタクルにeMarker入りのケーブルは必須である。

急速充電トリガー

トリガーはEPRを除きうまく動作するようだ。

電子負荷抵抗でも設定された電圧・電流が計測された。

電気容量計測

10本のデータが記録できる。FNB58のような作りだ。

グラフ表示

VBUSリップル波形の表示もサポートしている。

水準器

こんな機能よりもまともに全画面でローテーションをサポートして欲しい。

eMarker表示

まともに動作していない。まず両面対応していないので読めない場合はType-Cのコネクタ裏側を試さなければならない。また、コネクタにも給電しないと読めない。eMarkerがあったら中身は読まずにこの表示をしているような気がする。KM003Cの表示とまったく違う。これではEPR対応しているわけがない。

ケーブル抵抗測定

KM003Cで未実装の機能が組み込まれているが、これを試すにはCレセプタクル直結の負荷抵抗が必要だ。計測方式としてはFNB58と同じになる。

総評

すべてが中途半端、とりあえずKM003Cに寄せて作って販売してみたという感じがする。機能、操作性、内部FWの未完成、PCソフトの作り込み、すべてが未完成過ぎていいところ2,000円程度のUSBテスターである。豊富なアクセサリーが何のためにあるのかもまったくわからない。KM003Cの足元にも及ばないので買う必要はまったくないガジェットであった。