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格安高性能USBテスター ALIENTEK UT70をレビューする

UT70は券売機にあらず

ALIENTEKと聞けばDP100というぐらい、小型の安定化電源で注目を集めている。あるいはT65というPD対応のはんだごてをイメージするかもしれない。そのALIENTEKからUSBテスターが発売されていた。アリエクでは年明けから扱っている。

国内ベンダーではスイッチサイエンスが2月28日から発売している。本体2,980円+送料200円なので、アリエクの値引き価格とほぼ変わらない。KM003Cも発売してもらえないだろうかと思う。

3月上旬に入手してからしばらく触れなかったが、ようやく時間ができたのでレビューしてみる。

実物確認

ATORCH C13Pとまったく同じ窓開き缶ケースに収まっていて、ケーブルはHID用にUSB Type-A(2.0)→Micro USB Type-B(2.0)が同梱されている。HID端子はKM003Cと同様にそろそろType-Cに統一して欲しい。

今までのテスターと違うのはしっかりとした紙の取扱説明書が同梱されていることだ。この辺はメーカーのポリシーが表れていて好感が持てる。

外部インターフェイスはFNB58とまったく同じ構成になっている。A端子が2.0の4ピン+3.0の7番ピンをサポートして、DASHケーブル対応のところまで同じだ。

ただ、KM003CのようなC経路に置くような使い方は電源系以外できない。もっともこの使い方ができるのはCの24ピンをスルーさせているKM003Cぐらいで、大半のUSBテスターは電源系のみのサポートなので、例えばディスプレイポートオルタネートモードで動作しているモニタの経路において電力情報を見たり、PDパケットを読んだりする使い方ができないのは残念だ。

そもそもUT70はPDパケット読み取りに対応していない。FWで可能と思われるのでぜひ対応してもらいたい。

基本スペック

3千円テスターで196WまでのPD 3.1に対応している。取扱説明書もしっかりしたものが用意されているのでいつものように機械翻訳をベースにした和訳版を用意した。

ダッシュボード

メーカーはこの名前で呼んでいないが他社に合わせて統一しておく。USBテスターとしてもっとも基本的な電圧、電流(向き)、電力が表示される。加えてD+,D-の電圧とパワーバンクモード作動アイコンがある。

そしてモニター時の急速充電プロトコルと設定電圧表示、これが正しく表示されれば無敵のテスターとなるが残念ながらそうはならない。メーカーも取扱説明書で長文の言い訳を記述している。識別精度はKM003Cのレベルに達していない。

パワーバンク

このパワーバンクはKM003Cのスーパーキャパシタ的なものかと思ったらそうでもなく、導通が50mA以下で給電が落ちないように定期的に300mAの負荷を疑似的に加えるものだった。テスターのためではなく、ソース側へ配慮した機能になる。

パワーバンクモード オフ
20mA程度の負荷ではバッテリーが30秒で供給を停止する

パワーバンクモード オン
この機能を使うと設定時間ごとに300mA負荷をソース側に与えてバッテリーは2分経ってもダウンしない

波形表示

VBUSの電圧電流ととD+D-の電圧の推移がグラフで表示される。更新スピードは中ボタンで変えられる。ただ、画面が小さいのと、スケールが4段しかないのでこの機能はパソコンで使う方がいいだろう。

データ記録

バッテリーに対してどれだけの電力が蓄えられたか、またバッテリーからどれだけの電力が放出できたかを記録するものでほとんどのテスターが有している。本機は4グループ各10200ポイントが記録できるので、1秒インタバールとすると1グループ2時間50分の記録ができる。最大の2分インターバルにすると約2週間の記録ができる。
容量偽装バッテリーの判別やスマホのバッテリー劣化をチェックするのに有効だろう。

急速充電プロトコル検出

USBテスターを買ったらまずやってみたい機能がこれだ。自分の持っているUSB充電器はどんな充電規格に対応しているのか、そのポテンシャルをすべて引き出してみることができる。本機は以下のプロトコル検出をサポートしている。
BC 1.2、QC 2.0、QC 3.0、PD 2.0、PD 3.0、PD 3.1、Huawei FCP,SCP、Samsung AFC、MTK PE、VOOC、VIVO VFCP、APPLE 2.4A
PD 3.1まで対応しているが28Vが本機の上限なので28V5Aの140Wまでが実力値となるだろう。また、KM003CのようなE-Markerの偽証機能はないので必ず必要なケーブルを用意する。検出自体はCポートのIN/OUTどちらでも行える。

トリガー

これはあまり使う人はいないかもしれない。例えば100WのUSB充電器を買って定格最大の100Wで1時間連続使用をしてどれぐらいまで筐体温度が上がるのか。このテストをしたいとき、テスターが充電器に対して100W必要という情報を常に与え続ける。なおかつ、電子負荷装置などを用意して100Wを定量的に消費できる環境を揃える。電子負荷装置側に一部トリガー機能を持つものもあるが、テスターを使うとさまざまなプロトコルで電力を取り出せるのが魅力だ。本機は以下のトリガーをサポートしている。当然充電器側がこのプロトコルを持っていることが条件だ。
QC 2.0、QC 3.0、PD 2.0、PD 3.0、PD 3.1、Huawei FCP,SCP、Samsung AFCVIVO VFCP

E-Marker情報読み取り

Type-Cのコネクタ内に内蔵されているE-Markerというチップの情報を読み出す。表示されるのは一部の情報のみだが、最低限必要な情報はサポートされている。検出されない場合は赤字のerrorとなる。

DASHケーブル情報読み取り

一部中華製スマホで使われる急速充電ケーブルはPDを使わず、USB Type-A(2.0)なのに3.0で追加された5~9ピンのうちの7番ピンを識別用に使用する特殊ケーブルになっている。本機はそのケーブル情報を読み取ることができるように7番ピンを持っている。

ケーブル抵抗測定

ケーブル抵抗値というとUSBケーブルチェッカー2がおなじみだ。2端子挿してスイッチを入れるだけのお手軽さが売りで利用者も多い。しかし、どうも測定値が安定しない。本ブログではケーブル抵抗に関してかなり時間を割いて取り上げている。UT70はスペックによると高精度合金によるサンプリング抵抗を内蔵している。これを使用した差圧法で算定する。必要なものは測定したいケーブルと500mA以上の電子負荷装置。何回かテストした範囲では2A程度与えた方が正確な数値が出るようだ。

 

以前作成した200mΩ+接触抵抗の標準抵抗原器に再登場してもらう。

公正を期すため、各機種で順番に1回ずつ計測する、を10回繰り返すことにする。

機種

ALIENTEK

UT70

FNIRSI

FNB58

ADUSBCIM
USB CABLE CHECKER 2
回数 A-C C-C A-C C-C A-C C-C
1 281 254 265 212 414 323
2 263 253 291 215 430 322
3 264 253 263 225 338 312
4 261 252 300 208 444 322
5 313 253 289 215 468 306
6 274 253 298 199 322 309
7 373 246 401 198 429 310
8 406 259 347 204 398 309
9 385 248 418 198 324 312
10 465 267 341 197 508 309
平均mΩ 329 254 321 207 408 313
標準偏差 69.5 5.5 51.3 9.0 59.4 6.1

傾向としてはどれもC-Cケーブルの精度が高く、A-Cケーブルは信頼性がない。FNB58の200mΩを切るというあり得ないデータからすると、UT70のC-Cケーブルが一番正値に近いのではないだろうか。

画面の向き

自動ローテーションはされず設定により正逆どちらかにして使うことになる。ATORCHの千円テスターが対応しているので何とか搭載して欲しかった。

パソコンソフト

詳しいことはユーザーマニュアルに譲る。1画面で構成されていて非常にわかりやすい。現時点ではネット経由でのアップデートをかけるとエラーになる。

メーカーに確認したところオンラインアップデートは中国以外ではできないとのこと。さりとて最新FWを公開しているわけでもない。

今後に期待

E-Markerが読み取れるのだからPDパケットも読み取れると思う。KM003Cと同じくパソコンソフトだけの対応でいいのでファームウェアの改修で実現して欲しいものだ。

それにしても近年の高性能USBテスターには目を見張る。今後も目が離せない。