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マクドナルド ポテト加湿器の焼損事故を追検証

年初の福袋を求めた人にうつ袋が与えられた事例はその後のX書き込みでも後を絶たない。当然、起きている不具合の公表は氷山の一角だろう。単純に不動になって使わなくなった人はある意味幸せだったかもしれない。

 

色々な事例を見ていると焼損は主にType-Cのコネクタ付近で起きている。ただ、その場合でもケーブルワイヤー部分にも熱が加わっているのがわかる黒ずんだ写真も拝見している。今回の事故はポテト加湿器本体というより、同梱ケーブルの被害が大きい。前回のブログで発表した通り、この同梱ケーブルはとにかく品質が悪い。しかし、今回のポテト加湿器ではこの同梱ケーブル以外は使うなとしているわけなので、たとえ同梱ケーブルの問題であっても加湿器本体と不可分として製造物責任は逃れられない。

通電LEDがないという構造上の問題もある。コネクタを挿して、電源アダプターから供給されているのにLEDが点灯しなければどこかおかしいと気が付く。今の製品はそれがわからない。

焼損の原因

これは明らかだ。電源アダプター=同梱ケーブル=ポテト加湿器、この導通経路のどこかでショート(電気的短絡)が起き、負荷抵抗が高く耐燃性のない同梱ケーブルが発熱したということだ。考えるべきは次の2点。

  1. 何が原因か
  2. どこで短絡したか

この2つに関して被害者に説明された謎の第三者検査機関の見解も踏まえて推論していこう。

何が原因か

1.初期不良

製造物であるので全検品をしない限りこの可能性は否定できない。しかし、今回被害者の方は最低でも数回は使用した上での事故である。あるいは耐久性が悪く数回でどこかが短絡することは考えられる。この場合は通常使用による故障なのでパッケージにある2025年1月31日までは保証される。ただし、それを認めるのはサプライヤーというのが圧倒的に消費者不利である。実際、今回サプライヤーの言い分では数回使えているので製品の不良ではなく保証も補償もしないというスタンスである。

2.経年劣化

通常に使っていて経年劣化により起こる可能性、これは1月購入ですぐに起きているから考えられない。そもそもType-Cのコネクタは認証品であれば「耐1万回の抜き差し、挿入力は5~20N、離脱力は8~20N、ケーブル曲げ試験と挿抜試験は4軸方向が課される。電流温度上昇試験ではVBUS端子に5A、VCONN端子に1.25Aの電流をかけて温度変化が30ºCを超えてはならない。」となっている。今回USB-IF認証ケーブルではないが、これに準じた品質は持っていて欲しい。常用する人は毎日コネクタを抜き差しして水を入れなければならないのだから当然だ。

3.水滴

加湿器という性質上、当然水とは無縁ではない。水道水を推奨しているが純水ではないのでカルキが含まれている。ダイニチ工業は「超音波式やスチーム式は送風ファンがついていないと加湿器本体周辺に水の粒子が落ちていく。」としている。コネクタ部分に水分が付着してショートを起こした可能性は否定できない。水道水といってもアルカリイオン整水器のようなものを付けている人もいるだろう。

4.外力

三者検査機関は確証もなくこれを原因と特定した。コネクタとレセプタクルの接合部は問題がなく、コネクタの外に出た部分に外圧がかかってコネクタ持ち手部分にある樹脂の内部のピンが曲がり、黄色の部分のようにVBUSとGNDが接触して短絡したと結論付けていた。ここは白い樹脂に覆われた部分である。どのような力学が働いたらこのような左右からの曲げが発生するのだろうか。

どこで短絡したか

1.基板内

これは考えにくい。短絡は発生するとその場所から電源供給部まですべてのラインで過電流が流れる。その中で耐えられない部分が破損または発熱発火する。今回事故が起きた基板には問題がなかった。基板上のレセプタクル部分にコネクタや加湿器外装の樹脂が溶けた付着物があったぐらいだ。

2.レセプタクル内端子部

基板側にあるメス部分の内部は一枚の板両面に端子の電極が3本ずつ貼り付いている。片側にVBUS,GND,CC1(CC2)がアサインされている。非常にしっかりした作りのもので耐久性にも問題はなかった。万が一、この細い電極が板から剥がれて差し込み時に押し込まれてガワとなるシールドに接触したら・・・。レセプタクル内でシールドとGNDは導通していないが、挿し込まれるコネクタ側がシールドとGNDで導通しているので結果ショートが発生する。これが原因かどうかは痕跡が残るので損傷した実機を確認すればわかる。

サプライヤーがしきりに加湿器本体には異常がなかったというように、この基板はしっかり作られていると思う。

3.Type-Cコネクタ内端子部

これは2か所考えなければならない。レセプタクルと密着する端子部と、接合部からは外に出る部分の端子延長部。第三者検査機関は後者がショートしたと結論付けた。
一方でレセプタクルと密着する部分の端子は剥がれて押し込まれても樹脂が覆っているのでショートは発生しない。よっぽど剥がれた端子が少し離れたVBUS,GNDで接しない限り。レセプタクルにまっすぐ挿し込むことを考えるとこれは考えにくい。

以上が想定されるすべての可能性である。できる範囲の検証を進めてみよう。

アルカリイオン水による通電試験

我が家には高級な整水器はないので、アルカリイオン飲料といえばポカリスエットを用意した。実際にはこんな水道水はないのだが、仮にイオンたっぷりの水を使ったとしての実験だ。

このコネクタ先端は次の外力試験で先端シールドが取れてしまったものを使っている。Type-Cコネクタをポカリスエットに浸して通電するかどうかを試した。結果、大した電流は流れなかった。水道水は犯人ではなかった。なお、残ったポカリスエットはスタッフがおいしくいただいた。

コネクタ持ち手への外力試験

今回の事故がすべて実使用中に起きたことを想定して、Type-Cコネクタをレセプタクルに挿入した状態で、4方向へ過度のストレスを与えることにした。果たして普通に置いて使用しているだけで、とくにコネクタのその部分にだけ外力がかかることは想定しにくいが、第三者検査機関の結果は尊重しなければならない。ネコが蹴飛ばしてある程度の高さから落下して下が固く、加湿器にも水が満タンに入っているぐらいの重さが外力相当の限界だろう。さて、内部ショートが起きるのかどうか。

これはなんということだろう。大した力は加えていない。挿抜4軸方向試験のつもりで、レセプタクルに挿したまま上下左右に揺すっていたら何やら先端がぐらついてきた。と、思ったらすっぽり先端が抜けてしまったではないか。ナウシカのミトならこういうだろう、「なんちゅーもろい筒じゃ…」。

一度抜けた先端は元に戻せない。毎日水を入れる人は年間365回抜き差しするわけで、とてもその耐久性はない。実際手元にある人はちょっと普通にぐりぐりやってみて欲しい。ぐらつきだしたらもうそれは危うい。

左が故意に持ち手の樹脂を除去したもの、右が先ほどのすっぽり抜けた先端である。VBUSとGNDはしっかり固定されている前提なのでこんなゆるいものは金属端子がすぐ緩んであっという間に接触するだろう。そうするとすなわちショートである。

これだけ弱いコネクタ部のケーブルなら大した外力が加わらなくても日常使いで十分起こりうる。そしてそれは決して使用者のせいではない。

むき出しになったケーブルは故意にショートさせるとわたしの充電器では3.5A流れた。これが推奨の2Aであってもこのケーブルが耐えられると思えない。

最後にこの粗悪ケーブルは使いたくないので故意にショートを続けたまま通電をしてみた。およそ5分ほどで煙が出始めた。たった14W流れただけである。最近のスマホは充電中にもっと電流が流れる。

サーモグラフィによる測定では120℃を超えてしまっている。幸いこの温度までなら溶けたり煙が出ても発火点までには達しないようだ。それでも大切なものに穴を開ける能力は十分にある。

傾向と対策

ポテト加湿器本体は通電LEDがない以外はしっかり作られていて、これが問題になることはまず考えられなかった。Type-Cの仕様もしっかり守っている。通電して約6時間で自動オフになる機構も備えてある。

しかし!同梱ケーブルがまったくもっていただけない。コネクタをつないで電源を入れたのに不動という人は基板不良で通電していないのか、コネクタ内でショートしているのかわからない。ケーブルを握って温かくなってきたらすぐにそのケーブルの使用をやめるべきだ。

今後もポテト加湿器を使いたい場合は、次のようにするのがよい。しかし、サプライヤーが求める禁を冒すわけなのであくまでも自己責任である。

  1. しっかりと素性の知れたUSB充電器を使う。スマホ用に売られているPDやQCに対応した急速充電器でもよい。ワット数にもこだわらない。もちろんType-Cでよい。
  2. しっかりとした作りのC-Cケーブルを使う。D+,D-,CC線がアサインされているので、ソース(充電器)とシンク(加湿器)でCC端子のプルダウン、データ線アサインなしを確認してSDP(Standard Downstream Port)の5V/0.1~0.5Aが供給される。
  3. C経路に置けるUSBテスターを用意する。過去紹介した1,000円テスターで十分なので、通電がわからない製品にはこういった外付けツールが必須だろう。

140W PD 3.1 EPRのポートから240W C-Cケーブルで通電

自分で言い出した対策なので検証はしておこう。持っている中では最大の電力供給ができる単ポート140W(28V/5A)の充電器から、週アスで検証したなんちゃってPDの240W対応USB4ケーブルを使って接続した。KM003CはApple 2.4Aと認識している。上でSDP 5V/0.1~0.5Aとしたが、急速充電規格以外の通電プロトコルを正確に読むのは難しい。いずれにせよ極太ケーブル的にはまったく問題のないワット数だ。

故意にショートを再現

稼働中、故意にレセプタクルVBUS/GNDを短絡してみる。充電器は過電流を検知して直ちに出力を停止した。0.5Aを超えることはなかった。そして、加湿器は再度電源を入れない限り動作しなかった。サプライヤーが禁止する充電器と他社ケーブルが極めて安全という皮肉な結果になった。

今からでもサプライヤーは同梱ケーブルの使用をやめてまともなケーブルを再配布するか、推奨ケーブルを提示した方がいいと思う。もうXで焼損投稿を見るのは最後にしたい。

コネクタ持ち手内部の強度

再度検証を進めた。先の実験ではコネクタ先端部分の金属と内部樹脂だけがごっそり抜けてしまったが、持ち手樹脂内部はどうなっているのだろう。やはり前回と同様にコネクタを挿したまま上下左右に揺さぶってやると難なく先端が抜けた。しかし、今度は金属端子も何本か持って行かれてしまっている。基板への銅箔が弱い部分がそのまま抜けたことになる。ちょっとの揺らしでこの耐久性ではとても1万回に耐える設計にはなっていない。

それでは基板側に生き残った貴重な端子を見てみよう。

なんと4本あるVBUSのうち1本だけ。GND4本は全員残っていて、地(アース)は足に付いている感じだ。

しかし、粗悪ケーブルだとこれほど基板の銅箔強度が弱いのかと改めて考えさせられる。これだけ弱いなら金属ピンで押されて内部でVBUS根元が基板から剥がれてお隣のGNDに内部で接触してもまったく不思議ではない。